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コラム:事業再生と景気変動

2024.2.29

1.過去の景気変動

事業再生は景気変動と密接に関係する概念である。

 

まず50代の人が皆記憶にあるのはバブル崩壊(1991年)であろう(※1)。かかるバブル崩壊の原因は諸説あるが、メジャーなところでは、

①(1985年の)G5によるプラザ合意により、円高傾向(1985年は1ドル238円が翌年は168円に変化している)になったことから、②金利引下げ(公定歩合は1986年当時4.5%が1987年段階では2.5%に変化)によりマネーサプライが増加し不動産・株式に向かったため、③市場価格とファンダメンタルの間に解離が生じ、且つ公定歩合の引上げもあり(1990年に6%)、崩壊に至った(1989年12月29日に日経平均は38,957円、その後1.5万円台までに下落)というものである(※2)。

 

次に大きな景気問題が生じたのはリーマンショックである。その原因としては

①サブプライムローン(※3)が拡大したものの(2002年に2000億ドル程度だったものが2005年に6000億ドルを突破)、借り換えが困難となり(※4)、②当該ローンに基づく証券化商品(※5)がグローバル市場に流通していたため、多くの人が疑心暗鬼にかられ(リーマン・ブラザーズ証券破綻は2008年9月)、大幅な価格下落(サブプライム関係の銀行の損失額の合計は、IMFの推計で2.8兆ドル(2009年10月時点)といわれる)が生じたということが主張されている(※6)。その後も、東日本大震災、コロナ禍と大きな事件は生じている。特にコロナ禍では、飲食店や宿泊業が大ダメージを受け、多額の公的資金が拠出されるに至っている。

 

2.今後の景気変動

以上の経緯を表面上眺めると、景気変動は時々の惨事が原因で、人間には予見不可能な事項であったようにも見える。もっとも、具に眺めると、その過程において様々な課題が存在したことが伺える。

 

第一に日本銀行の時々の判断が適切だったのかという問題が存在する。現に①前掲日銀研究は「金融政策を検討し、反省することを課題としている」と記載しているし、②日本銀行のゼロ金利解除に対する批判がその後のリフレ派の行動につながったとも言われる(※7)。第二に、なぜバブル期に余剰資金が設備投資に回らなかったのかという問題も存在し前掲日銀研究は「日本経済の長期的・構造的な調整の過程で生じたことかもしれない」と記載している。第三に、リーマンショック前、なぜ米国政府はサブプライムを拡大させたのかという疑問も存在するが、一説にはマイホームの取得に関する期待(アメリカンドリーム)を維持するために、米国政府は住宅ローン政策に注力したとも言われる(※8)。第四に、リーマンショックが発生した背景に関連して金融機関の関与度合いが問題視されたことは著名な事実であろう(※9)。第五に、コロナ禍は特定の業種全体に存在するリスクというものを我々に認識させたし(※10)、感染症対策への備えが十分だったのかという問題も提起されている(※11)。

 

ちなみにコロナ融資に関しては、その結末も含め全体像が明らかでないが、日本経済新聞「政府系コロナ融資、不良債権6% ゼロゼロなど8700億円」(2023年11月7日)によると(※12)、政府系コロナ融資の残高は22年度末で14兆3085億円、不良債権は約8700億円と全体の6%になったことが会計検査院の調べで分かったとのことである(※13)。またコロナ予算77兆円の中で(ちなみに東日本大震災の復興予算は10年あまりの総額で約32兆円とのことである)、中小企業支援は総額26兆円に上るとのことである(※14)。以上の結果、普通国債残高は2023年度末で1068兆円に上ると見込まれ、日本の債務残高はGDPの2倍を超えていると評価される(※15)。なお、コロナ禍での金融支援策は、多くの先進国で採用されているが、日本の支援策は(他国と比較しても)相対的に大きかった可能性もある(※16)。

 

では、今後我々の未来に待っている経済的危機は何であろうか。勿論預言者でない以上、確たることを予想することはできない。しかしながら、仮に様々な社会現象の積み重ねが大きさな経済変動を生むのであれば、既に存在する問題の積み重ねを踏まえ、次の経済変動に備えていく必要がある。具体的には、少子高齢化の影響(※17)、経済的格差の問題(※18)、経済安全保障(※19)、テクノロジーの影響(※20)、コンプライアンス概念の変化(※21)、ソーシャルメディアの伝播性等(※22)、非正規労働の状況(※23)、与える政策からの転換が必要となっていること(※24)等、既に存在する問題も多い。我々が事業再生に関与するにせよ、企業価値の向上に関与するにせよ、これらの問題への対策を検討する意義は大きいのではないだろうか。

 

なお、このような経済問題とは対比的に、2024年2月中旬の日本株価はすこぶる好調であり、上述のような景気後退のリスクは少ないのではないかという意見もあるかと思う。もっとも現在の株価が、①真に日本経済が復活したものなのか、②海外の資金が流入しているからなのか(なお数字については日本取引所グループ「投資部門別売買状況」参照のこと)、③東証等の指導により上場企業のガバナンス等が改善したからなのか、④半導体等の価値影響によるものなのか、⑤それとも個人から法人への所得の移転が生じているからなのか、⑥K型経済の顕れにすぎないのか、という問題についても留意する必要があるかと思われる。

 

執筆者:柴原 多

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  1. とはいえ、2024年現在、1991年生まれの人は33才なので、30代の人には歴史上の事柄に過ぎない点に留意が必要である。

  2. 詳細は、香西泰他「バブル期の金融政策とその反省」日本銀行金融研究所(200012)参照のこと。

  3. 国土交通省住宅局「米国の住宅ローン市場等について」国土交通省(20101)によると、サブプライムローンは通常の住宅ローン(プライムローン)より信用度が劣る債務者に対するローンであるが、サブプライムローンの破綻は、プライムローンの信用度にも影響を与えたとされる。

  4. 前掲国土交通省によると、サブプライムローンの借入人は住宅価格の向上を前提に借り換えを期待していたが、2008年度の全米差押件数は過去最高を記録したとされる。

  5. 前掲国土交通省によると、米国では1970年代から住宅ローンの証券化が進んでいたとされる。

  6. 統計数字については前掲国土交通省参照のこと。

  7. 例えば武藤敏郎「私の履歴書20」日本経済新聞(2024121)によれば「ゼロ金利解除に踏み切った。その後、我々が予測したとおり景気は再び下降し始め、日銀は20013月に前例のない量的緩和策にかじを切る」と短く紹介されている。

  8. 詳細はラグラム・ラジャン『フォールト・ラインズ』新潮社(2011)参照のこと。同見解に基づけばリーマンショックの背景には経済的格差が存在することになり、今後の経済的格差が原因となる経済事象が生じうることといえる。

  9. サブプライローンへの反省がその後の金融機関に対するコンプライアンス強化の姿勢につながったことは、例えば神田秀樹『会社法入門 第三版』岩波新書(2023)266頁以下参照のこと。

  10. 例えば、ESG開示は、分散投資家の主な関心事であるシステマティックリスクと実質的に重複していることについては、John C. Coffee“The Future of Disclosure: ESG, Common Ownership, and Systematic Risk,”European Corporate Governance Institute – Law Working Paper(2020) 参照のこと。

  11. 例えば、デービット・ミリバンド(元英国外相)「欧米社会とグローバルサウス」フォーリン・アフェアーズ・レポートでは「パンデミックの予防に必要なコストは年間150億ドルと、アメリカ人が毎年ピザに費やす金額の半分以下で済む」と述べている。

  12. 詳細は「政府系コロナ融資、不良債権6% ゼロゼロなど8700億円」日本経済新聞(2023117) 参照のこと。

  13. 但し民間金融機関分も含めると229月末時点の実行額は約43兆円とのことである。

  14. 詳細は、「中小企業・巨額支援26兆円のゆくえ」NHK参照のこと。

  15. 詳細は「これからの日本のために財政を考える」財務省参照のこと。また政府債務拡大の詳細は伊藤新「政府債務の歴史に教えられること」独立行政法人経済産業研究所(2023820)参照のこと。なお同論文によると、荒債務比率は終戦時の1.7倍を優に超えており、債務比率の引下げには実体経済の潜在的成長力の増進が必要とされている。

  16. 詳細は根元忠宜COVID-19ショックに対する中小企業向け支援の国際比較」日本政策金融公庫論集 第54号(2022年2月)参照のこと。

  17. 少子高齢化の原因については諸説存在するが、日本社会の様式変化を理由とするものとしては、山田昌弘「日本で少子化対策はなぜ失敗したのか」財務省財務総合政策研究所 人口動態と経済社会の変化に関する研究会 第一回報告(20201020日)参照のこと。

  18. 例えば、長年の経済的格差が社会的制度と関係することについては、トマ・ピケティ『資本とイデオロギー』みすず書房(2023)参照のこと。

  19. 例えば、特集「経済安全保障の法的制御」法律時報1198(20241)参照のこと。

  20. 例えば、AIと米中対立の関係(AIについては「閾値」という概念が適用されにくく、先行者が有利な地位を示すこと)については(Google)エリック・シュミット「イノベーション・パワーーテクノロジーが地政学の未来を決めるフォーリン・アフェアーズ・レポート参照のこと。

  21. 例えば、サステナビリティが会社の経営判断に影響を与えることについては(会社法実務の大家である)中村直人「サステナビリティと実務の留意点」NBL1243(20236)8頁参照のこと。

  22. 例えば、(世界的リスクの分析を行う)TikTok Z 世代」 TOP RISK 2023 日本への影響 ユーラシアグループ 参照のこと。

  23. 例えば、森ます美他『非正規という働き方と暮らしの実像』旬報社(2023)参照のこと。

  24. 例えば、岡本全勝「明治型国家から成熟国家へ」Wegde20242月号26頁参照のこと。

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