COLUMNコラム
【BAPクローズアップ案件】住友商事によるAir Lease Corporation買収
2025.9.19
住友商事による米国大手航空機リース会社買収の全体像
株式価値は約74億米ドル、ポイントとなる停止条件と第三者同意の設計とは
今回のM&Aサマリ
2025年9月2日、住友商事は、SMBC Aviation Capital(以下、SMBC AC)、Apollo、Brookfield と共同で、米航空機リース大手 Air Lease Corporation(以下、ALC)の全株式を取得することに合意した。買収金額は、株式価値評価額で約74億米ドル、企業価値評価額で約282億米ドル規模となる。
買収完了後、住友商事のALCへの出資比率は約37%となり、社名を“Sumisho Air Lease” に変更することを予定している。規制・株主承認を前提に2026 年上期のクロージングを見込み、住友商事グループは航空機リースで世界最大級のプレゼンス確立を目指す。

74億米ドル買収の全体像と資金調達の仕組み
本取引は、アイルランドに設立される持株会社を通じて、NYSEに上場しているALCの発行済全株式を1株当たり65米ドルの現金対価で取得するものである。株式価値は約74億米ドル、負債込みの企業価値は約282米億ドル規模である。クロージングは2026年上期を見込み、株主承認および各国規制当局の許認可を停止条件とする。
取引完了後は、ALCを“Sumisho Air Lease”に改称し、同社の大部分の機材をSMBC Aviation Capitalが受託管理する。さらに、機体メーカーとの発注残(Orderbook)はSMBC Aviation Capitalへ移管する設計である。移管に必要なOEM同意は合理的努力で取得するが、同意未取得それ自体はクロージングの停止条件とはしていない。
資金手当は、買収者側でエクイティ最大約54億米ドルと、デット最大約121億米ドルのコミットメントを確保している。契約上はNo financing contingency(資金調達前提条件なし)を採用し、買い手都合の資金未達による不履行を封じている。ディールプロテクションは双方向で、会社側の解約時に2億2,500万ドル、規制未了等で親側が解約する場合に3億 5,000万ドルを支払う条項を設けている。
Air Lease Corporationの強みと事業構造
ALCは2010年設立の航空機リース専業である。2024年12月末時点で保有489機・管理60機、平均機齢4.6年、平均残存リース期間7.2年という若齢ポートフォリオを持ち、58か国・116社の顧客にサービスを提供している。新造機中心の在庫構成と長めの契約期間がキャッシュフローの安定性に寄与している。
同社の収益モデルは、運航会社向けオペレーティング・リースを軸に、フォワード・プレースメントや売却益を組み合わせる構成である。サプライチェーン制約により新造機の供給がタイトな環境下では、若齢機の希少性が相対的に高まり、資産回転とリプライシングの余地が生まれる。2024年末時点では受注残も厚く、継続的な若返りと稼働率の維持が可能なポジションにある。
買収ストラクチャーとガバナンス設計の要点
買収ストラクチャーは、Gladiatora Designated Activity Company(本件のために設立されたアイルランドの特別目的会社(Parent))を頂点とし、Takeoff Merger Sub Inc.(Parent の米デラウェア州の合併実行用子会社)をALCに吸収合併させ、ALCが存続会社としてParentの間接完全子会社になるという流れである。クロージング後の社名や運営体制、注文残の取り扱いは契約に沿って実装される。
停止条件と第三者同意の設計が要点である。機体メーカーの同意取得は合理的努力義務としつつ、同意未取得それ自体はクロージングの停止条件とはしていない。規制承認・株主承認の進捗と独立に、クロージングの安定性を確保する意図が見られる。
議決権/持分割合比率は、住友商事 47.5%/37.5%、SMBC Aviation Capital 5.0%/25.0%、Apollo 23.8%/18.8%、Brookfield 23.8%/18.8%という配分となる。
出典・参考資料
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