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【BAPクローズアップ案件】住友商事、SCSKへのTOBで完全子会社化へ

2025.12.1

グループDX中核子会社の親子上場解消と8,820億円投資の狙い

DX戦略の要となるITサービス大手をTOBで囲い込む親子上場解消と少数株主保護のポイントとは

今回のM&Aサマリ

住友商事は2025年10月29日、連結子会社であるSCSK株式会社に対して株式公開買付け(TOB)を実施し、完全子会社化・非公開化する方針を公表した。本TOBは、2025年10月30日から2025年12月12日までの30営業日というスケジュールで進行している大型取引である。

買付主体は住友商事の100%子会社であるSCインベストメンツ・マネジメント株式会社であり、買付価格は普通株式1株あたり5,700円、買付予定数は約1億5,470万株、買付代金総額は約8,820億円という規模感で設計されている。住友商事はすでにSCSK株式の約50.5%を保有しており、本TOBは残り全て(住友商事保有分および自己株を除く)を取りにいく「親子上場解消型」の完全子会社化案件である。

対象会社であるSCSKは、コンサルティングからシステム開発、検証サービス、ITインフラ構築、ITマネジメント、ITハード・ソフト販売、BPOまで、ビジネスに必要なITサービスをワンストップで提供する国内有数のITサービス企業であり、8,000社超の顧客を支える事業基盤を持つ。住友商事グループのデジタル・AI戦略の中核を担う存在として位置付けられてきたプレーヤーを、完全にグループ内に抱き込むことが本件の大きなテーマである。

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取引の構図と各社の関係

本TOBの表舞台に立つのは、SCインベストメンツ・マネジメント株式会社である。2025年9月16日に設立されたこの会社は、「SCSK株券等を取得・所有すること」を主たる目的とする投資ビークルであり、その発行済株式は住友商事が100%保有する。住友商事自身はこれまでどおり親会社として背後に控えつつ、実際の公開買付け行為はこの子会社が担う構図になっている。

住友商事は2025年9月30日時点で、SCSK株式1億5,809万株(潜在株式勘案後株式総数(将来発行され得る株式を含む基準株式)の50.5%)を保有しており、既にSCSKを連結子会社としている。TOBの対象となるのは、この持分と自己株式を除いた全株式および一部新株予約権であり、買付予定数の上限は設定されていない。応募が下限(議決権ベースで16.1%)を超えれば、応募株はすべて買い取る方針である。

対象会社であるSCSK側では、親会社との取引に伴う構造的な利益相反を意識し、独立した特別委員会を設置したうえで、独立FA・第三者算定機関として野村證券を、リーガルアドバイザーとして西村あさひ法律事務所を起用して検討体制を構築している。特別委員会は社外取締役3名で構成され、取引目的の合理性、条件の公正性、手続の公正性などについて答申を行う役割を担った。

結果としてSCSK取締役会は、本TOBに賛同し、一般株主に対して応募を推奨するという結論を採っている。親子上場解消案件でしばしば問題となる「支配株主による少数株主の取り扱い」を意識した、典型的な手続設計になっていると整理できる。

DX戦略の中核にSCSKを据える理由:タイミングと価格決定プロセス

住友商事は中期経営計画の中で、「デジタルで磨き、デジタルで稼ぐ」というキーワードを掲げ、全社レベルでデジタル・AI戦略の強化を打ち出している。900社規模の連結事業会社と約10万社の顧客・パートナーから成るビジネスネットワークに、SCSKや同社が2024年にTOBを実施したネットワンシステムズが持つIT・ネットワーク・クラウドの技術と人材を重ね合わせることで、新たな価値創造モデルを構築するという構図である。その中核プレーヤーであるSCSKは、SI・ITサービスに加え、インフラ構築やBPOまでを含むフルラインアップ型のITサービス企業であり、既に2024年に実施したネットワンシステムズの子会社化を通じて「SIer+NIer」の一体運営を進めている。

一方で、親子上場状態のままでは、SCSK一般株主への配慮から、投資回収期間の長いDX案件やグループ内シナジーを優先した投資判断に一定の制約が生じる。住友商事が本件を「非公開化を伴う完全子会社化」という形で進めているのは、こうした制約を取り払い、グループ全体最適の視点から大胆な戦略投資を打ちやすくする意図があると思われる。

価格形成プロセスも、親子上場解消案件としてはかなり詳細に開示されている。住友商事は当初、SCSKに対してより低い水準で提案を行ったが、特別委員会は「本源的価値を十分反映しておらず、少数株主にとって公正な水準ではない」として、たびたび大幅な引き上げを要請した。その結果、5,100円から段階的な引き上げが行われ、最終的に5,700円で妥結している。5,700円という水準は、TOB公表直前の終値4,359円に対して約30.8%のプレミアムとなる。

最終的に、SCSK取締役会は「本事業計画とリスクを前提とすれば、5,700円はおおむね妥当なレンジに収まる」と判断し、応募推奨の結論に至ったとされる。交渉過程がかなり細かく開示されている点は、近年の親子上場解消案件全体のトレンドとも整合的であり、今後の上場子会社TOBの一つのベンチマークになると思われる。

「8,820億円」の住友商事への財務インパクトと資本政策

約8,820億円という買付代金は、住友商事にとっても軽い金額ではない。住友商事は本TOBに要する資金を、まずブリッジローンで確保し、その後、中長期の銀行借入や普通社債へと切り替えていく方針を示している。資本性調達は行わない前提であり、短期的には有利子負債残高およびNet DERが悪化する構図になる。

この一時的なレバレッジ増加について、「資産入替の加速」「投資の厳選」などを通じて、遅くとも2028年度末までには足元水準まで戻すという方針が示されている。つまり、DX・IT事業群を取り込む代わりに、ポートフォリオのどこかで資産整理や売却を進めることが前提になっていると思われる。

S&Pグローバルなどは、本件の成立により住友商事の財務余力が低下する一方で、キャッシュフロー創出力やポートフォリオ改革の実行度合いを見極めて格付方向性を判断する、というスタンスを取っている。

本件は「DX中核事業をグループ内に抱き込みにいくためのレバレッジ利用」であり、その返済原資をSCSK+ネットワンシステムズの成長キャッシュフローと、他事業ポートフォリオの入替によって賄おうとする構図と捉えられる。商社M&Aの典型パターンだが、8,000億円超というサイズ感から、投資コミットメントの強さが際立つ案件でもある。

取引スキームと上場廃止までの道筋

スキームは一般的なものとなっている。まず、SCインベストメンツ・マネジメントによるTOBでSCSK株式をできるだけ多く取得し、住友商事と合わせて議決権ベースで3分の2以上を確保する。そのために、買付予定数の下限は、潜在株式勘案後株式総数に3分の2を乗じた議決権数から、住友商事保有分や一部の譲渡制限付株式の議決権を控除した水準(5,035万株)に設定されている。その後、株式併合等のスクイーズアウト手続を行い、残存株主を整理したうえで住友商事グループのみを株主とする完全子会社化を完了させ、東証プライム市場からの上場廃止という流れになる。公開買付期間は2025年10月30日から2025年12月12日までの30営業日であり、決済開始日は12月19日とされている。

実務的な観点では、SCSKの一般株主にとっては、「TOB応募によるイグジット(エグジット)」もしくは「スクイーズアウト時のキャッシュアウト」という二つの選択肢を時間差で与える設計である。親子上場解消TOBの一般的な枠組みを踏襲しつつ、買付価格やプレミアム水準については特別委員会の交渉を通じてある程度の「納得感」を取りにいった案件と整理できる。

出典・参考資料

本記事は公開情報に基づく一般的な情報提供を目的としたものであり、当社が内容の正確性・網羅性・最新性を保証するものではありません。また、特定の投資判断や法律・会計・税務に関する助言を行うものではありません。これらの事項については、必ず弁護士、公認会計士、税理士などの専門家にご確認ください。本記事の利用により生じたいかなる損害についても、当社は一切の責任を負いかねます。

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