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コラム:コンプライアンス違反が生じる原因

2024.7.4

企業再生の仕事をしていると、コンプライアンス違反の案件に遭遇することが多い。
その一方、「そんなにコンプライアンス違反は多いのか」という質問を受けることがあるが、その質問の背景には「自らはコンプライアンス違反を行わない」という確固たる認識があるのかもしれない。しかしながら、コンプライアンス違反は、悪意をもって行われる場合もあれば、そこまでの認識は存在しない場合もあり、誰しもが関係しうる事象であるともいえる。そのためコンプライアンス違反の原因・類型を摘示することは、それなりに意義があることと思うので、少し整理していきたい。

第1に、最も多く散見するケースは、いわゆる不適切会計の事案である。
この不適切会計を外部から発見するには、(昔ながらの)在庫回転率等に関する財務会計知識が有用だと思われるが 、それを持ち出すまでもなく、発見できるケースも少なくない(将来的にはAIによる発見もあるであろうが、そもそも多くの中小企業においては会計情報が正しく電子入力されていない状況にあるのが現状といえよう)。
その典型例としては、①PLは良好だが資金繰りが苦しいケース、②BS、PLの数値に異常が見られるケース等が挙げられる。
なぜならば、①一般論としてPL上黒字を生み出していれば、資金繰りも回る可能性が高いにもかかわらず、資金繰りが苦しいというのはPLに過誤が存在する可能性があるからである。勿論、PLとCFは完全には一致しないため、ズレが生じるケースは存在しうるが、第一勘としては、会計の適切性を確認すべきであろう。また、未収金・前受金・前払金・グループ貸付といった、少しイレギュラーな項目の数字が大きい場合も、会計の適切性を確認すべき事情といえる。
話が抽象的だと分かりにくいので、もう少し具体例を挙げると、ある会社Xには多額の未収収益が存在した(全資産の3分の1程度)。このようなケースは、先ほどの仮定に従えば、会計の適切性を確認すべき場合にあたろう 。しかしながら、債権者は長年その状況を認識しえなかった事案であった。その理由は定かでないが、一般的に「人は見たいものを見、見たくないものを見ない」といわれる。
ではX社は何故、不適切な会計を行ったのか。当該事案においては会社の営んでいるビジネスモデルが陳腐化(対面販売からインターネット販売にシフトした業界であった)してきたからである。本来であれば、陳腐化を感じた段階で、X社は業態を変更すべきであったといえる。しかし経営者はかつて相応の売上を上げていたという自負があり、業態変更を目指すのが遅れたが、取引業者も監督官庁も認識しえなかったという不幸な事案であった。

 

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■1 例えば、井端和男『最近の粉飾〔第7版〕その実態と発見法』(税務経理協会、2016年)参照のこと。
■2 念のために付言すると、未収収益を売掛金と考えれば、多額の資産計上は直ちに不自然でないが、キャッシュフローが苦しい場合には、滞留債権・貸倒債権等の不良債権が存在することを推測させることになる。
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第2に、大会社であるにも関わらず、監査法人を選任してこなかったY会社の事案がある。現行法においては会社法328条2項は「公開会社でない大会社は、会計監査人を置かなければならない」と規定されているが、メインバンクのみならず、他の金融機関も認識しえなかった事案である。
類似のケースとして、Z会社においては、長年に亘り取締役会等が開催されてこなかったことを多くの債権者が看過していたという事案もある。
この問題の本質は①多くの人は(債務者が)「法令を真面目に遵守しているはず」という信頼関係に依拠しているが、②その前提となる法令の内容自体を関係者が正しく認識出来ていない可能性に注意する必要があるということである。

第3に、海外の売上依存度が高い会社にも留意が必要である。グローバルな活動が一般化した今日、多くの企業が海外への依存度を高めている。そのような海外売上自体が架空であるケースもまま存在するかと思われるが、そこまでいかなくても、回収可能性等を吟味していないケースも存在する。
例えば海外債権が有効に存在していたとしても、当該債権の回収に問題が生じた場合、直ちに訴訟が提起できるわけでも、執行ができるわけでもない。
そのため、回収に問題が生じた場合、引当が十分に積まれていないと、監査状況によっては、財務状態が直ちに悪化することも考えられる。このケースでは、関係者は海外における与信の重要性を確認しなければならないというのが教訓である。

第4に、オーナーの行き過ぎたリーダーシップが会社経営に混乱をもたらすケースもある。一般に、オーナーは事業意欲が旺盛で、強いリーダーシップを発揮することで、企業の事業価値を向上させる。他方で、強すぎするリーダーシップは時に周囲の忖度を生み、達成困難な売上目標の作成等を生むことがある点にも留意が必要である。
わかりやすく言うと、「あの人は頼りになるリーダーだ」との評価が、「あの人がいるせいで、会社が無茶苦茶になる」と変化することもまま存在する。しかし過去の貢献が大きければ大きいほど、従業員や債権者は口を出しにくくなる点に留意が必要である。

第5に、そのようなオーナーが暴走行為に至ることもある。例えば、お酒に乱れたり、異性関係で問題を起こすこともあれば、高額商品の購入に走るケースや、取引先・金融機関先への過剰な接待攻勢に走るケースもある。この点、米国でのセキュリティクリアランスに関する下記チェック項目は、異常度の発見に分かりやすい示唆を与えるので、参考までに下記にて紹介させていただく 。

忠誠度合(Allegiance)、外国からの影響(Foreign Influence)、外国への傾斜(Foreign Preference)、性的行動(Sexual Behavior)、財政状況(Financial Consideration)、酒類消費(Alcohol Consumption)、麻薬関与(Drug Involvement)
感情・精神・人格的不具合(Emotional, Mental, and Personality Disorder)、犯罪的行動(Criminal Conduct)、治安面での違背行為(Security Violations)、部外での行動(Outside Activities)、IT不正利用(Misuse of Information Technology Systems)

第6に、規制業種によっては外部からの監視の目が入りにくく、トラブルの発見が遅れるケースもある。例えば、医療法人は「医は仁なり」という通常の営利企業と異なる論理が支配するため、外部からのガバナンスが機能しにくい。
そのような状態においては経営者のキャラクターにより企業運営が大きく左右されるが 、患者等に関する社会的救済の必要性からガバナンスの改善が遅れがちともいえる。このような問題点は、学校法人や宗教法人の様な閉鎖空間においても同様である。

第7に、業界自体において問題点が長年見過ごされてきた又は有力関係者において見過ごされてきたケースがある。具体的には、品質確認の手続が確保されていないケースや、保険制度に問題が内在していたケース等が挙げられる。
但し、このような事案は日本のみならず、海外においても散見されるケースである。例えば、欧州の某車メーカーは排ガス規制を逃れるために不正なソフトウエアを使用していたことが発覚している 。また、国際的な金利指標であるLIBORも不正操作を原因に利用が廃止されるに至った 。

このように、コンプライアンス違反というものは、特殊な企業又は特殊な人物が起こす特殊な行為に限られるものではなく、「企業をとりまく諸般の事情から発生しうるもの」であるということを、我々は再確認する必要があろう。

 

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■3 例えば、永野秀雄「米国におけるセキュリティクリアランス制度の基本情報」経済安全保障分野におけるセキュリティクリアランス制度等に関する有識者会議(第3回)(2023年3月27日) https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/keizai_anzen_hosyo_sc/dai3/siryou4.pdf参照のこと。
■4 例えば、日経産業新聞「千葉の心和会が倒産、巨額負債なぜ 過去3番目の規模」(2023年4月28日)https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC2490G0U3A420C2000000/参照のこと。
■5 例えば、ロイター「ディーゼルエンジンとVW「不正ソフト」の仕組み」(2015年9月24日)https://jp.reuters.com/article/idUSKCN0RO0ET/参照のこと。
■6 例えば、日本経済新聞「LIBOR不正操作とは?Q&A 住宅ローンにも影響 金融界の信頼揺らぐ」(2012年8月5日)https://www.nikkei.com/article/DGXDZO44577800V00C12A8FF8000/参照のこと。

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執筆者:柴原 多
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