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COLUMNコラム

【BAPクローズアップ案件】トヨタグループによる4.7兆円の非公開化案件(豊田自動織機TOB)

2026.1.16

豊田自動織機の非公開化を巡るトヨタグループ資本再編の全体像

エリオット参戦で争点は価格から正当化へ、NAV論点が揺らす公正性と成立確度

本稿は、2025年12月21日現在に公表されている一次情報(適時開示・公表文)を基に、必要に応じて報道で補完し、全体像を整理したものである。本件は「トヨタが豊田自動織機を買うTOB」という単純な図ではない。買付主体はトヨタ不動産が設立する会社であり、TOBは非公開化と資本関係の組み替えを同時に進めるための入口である。設計の肝は、親子上場解消の“形式”ではなく、持合い解消とガバナンス改革の要請を織り込みつつ、少数株主の納得をどこまで獲得できるかにある。当初公表時点ではTOB価格が市場価格を下回る、いわゆるディスカウントTOBであったことが、この難度をさらに押し上げた。
※2026年1月14日公表内容追記:2026年1月14日に公開買付け開始が正式決定され、翌15日からTOBが開始されること、ならびに開始時点の買付価格等が公表されたため、一部内容を更新しています。

今回のM&Aサマリ

公表されている枠組みを整理すると、買付価格は1株18,800円とされ、非公開化を目的とする一連の取引の一環としてTOBが実施される。TOBの対象は原則として豊田自動織機株式だが、トヨタ自動車が保有する約24.7%(7,410万604株)と自己株式は対象外とされる。

本TOBは2026年1月15日に開始し、公開買付期間は2月12日までの20営業日となっている。ただし、対象者から公開買付期間の延長を請求する旨の記載がされた意見表明報告書が提出された場合は、2月27日までの30営業日となる。

また、買付予定数の下限は1億2,621万5,300株(トヨタ自動車保有分を控除した総議決権に対して42.0%)に設定されている。この下限は、支配株主を除く少数株主の過半数の応募をTOBの成立条件とする「マジョリティ・オブ・マイノリティ(MoM)」として捉えられている。

一方で、本件における「少数株主」にトヨタ自動車以外のトヨタグループ各社が含まれていることに関して、MoMの趣旨(利害関係のある大株主を除いた少数株主の意思確認)との整合性という観点から説明を求める声が出ている。少数株主として扱われるトヨタグループ各社は、保有する対象会社株式の全てを本公開買付けに応募する意向を示している。これらを合算すると約5,300万株と、買付下限の40%超に相当する。MoM的な趣旨が唱えられる一方で、下限達成に向けた応募の相当部分をグループ内株主が担い得る点は、本件の公正性と成立確度を評価する上で避けて通れない論点となる。

TOBが成立した場合、その後はスクイーズアウトを経て上場廃止に進む想定である。また、トヨタ自動車はTOBに応募せず、非公開化の完了後に保有株式を豊田自動織機側へ売却する枠組みが前提として示されている。

トヨタグループによる豊田自動織機TOBに関するコラムのイメージ画像

なぜ今、非公開化となるのか

目的の中核は、モビリティカンパニーへの変革を掲げるトヨタグループの中で、豊田自動織機が担う「モノのモビリティ」領域を、よりダイナミックかつスピーディーに推進することにある。物流現場の自動化、ソフトウェア、環境性能、データ活用といった投資は、短期の業績変動を伴いやすい。上場下で四半期目線が強まるほど、意思決定が保守化しやすいという構造問題がある。だからこそ非公開化は「資金調達の手段」ではなく「短期の市場評価よりも、数年単位の改革と投資を優先できる状態をつくる手段」と位置付く。一方で、上場廃止は少数株主の換金機会を奪う側面も持つため、目的の正しさだけでは不十分であり、価格とプロセスで納得を取りに行く必要がある。

「持合い解消は後回しにしない」資本再編の設計図

本件は非公開化と同時に、グループ内の持合い株を整理する工程が明示されている。トヨタ自動車、アイシン、デンソー、豊田通商が保有する豊田自動織機株式の売却と、豊田自動織機が保有する株式についての自己株式公開買付けを同時に進め、相互の持合いを解消するという設計である。さらに、トヨタ自動車は自己株式公開買付けを予定しており、豊田自動織機が保有するトヨタ自動車株を解消する流れも組み込まれている。

注目ポイントは、持合い解消が「取引の付随物」ではなく「取引目的の一部」として扱われている点である。上場子会社や持合いが、ガバナンス改革の文脈で“説明負債”になりやすい時代において、資本関係の整理まで含めて設計しない限り、非公開化の正当性は積み上がらない。

価格と公正性の論点整理:ディスカウントTOBやエリオット、NAV論点

本件は、当初公表時点ではディスカウントTOBであった。買付価格16,300円は、発表前営業日(2025年6月2日)の終値18,260円に対して10.7%のディスカウントとされている。他方で、同価格は直近3カ月平均14,442円に対して12.9%、直近6カ月平均13,425円に対して21.4%のプレミアムでもある。つまり、「市場が平時に形成していた水準」にはプレミアムを載せつつ、「報道で跳ねた直近株価」には届かないという、二つの顔を持つ価格である。この構図を生んだのが、憶測報道を契機とする急騰である。4月25日、5月19日といった局面で株価が顕著に上昇したため、買付側は“期待が織り込まれた株価”をそのまま基準にしないロジックを取りやすい。なお、2026年1月14日の公表で買付価格は1株18,800円へ改定され、発表前営業日(2025年6月2日)の終値18,260円を約3.0%上回るプレミアム水準となった上で、翌15日からTOBが開始となった。

しかし、少数株主の側から見れば、当初ディスカウントとして提示された経緯は「なぜ今この価格なのか」という説明責任を重くする。事実として、豊田自動織機は公表時点では賛同を示しつつ、応募は株主判断に委ねる(応募中立)立場を採っていた。他方で、開始時点では取締役会が賛同に加えて応募推奨の意見を表明することが前提条件として明示されている。そして2025年12月、アクティビストとしても有名な米国投資ファンドのエリオット・インベストメント・マネジメントが約1,600万株(大量保有報告ベースで5.01%、自己株を除く議決権ベースでは約5.4%)を保有していることを明らかにし、状況に応じた重要提案を示唆したことで、争点は一段と先鋭化した。加えて、NAV(保有資産価値)がTOB総額4.7兆円を上回るという見立てが広がり、価格の土俵が「事業価値」から「資産価値」へ引き寄せられている。

ここで問われるのは、価格の水準そのもの以上に、公正性の作り方である。特別委員会の関与や開始時点での意思決定プロセスがどう積み上がるか、そして市場価格がTOB価格を上回る局面で、下限条件42.0%を満たすだけの応募を集められるかが、成立確度の核心になる。

進捗遅延が示す本件の難所

本件は当初、2025年12月上旬のTOB開始を目指していたが、2025年10月6日時点で各国の競争法、EU外国補助金規則、国外投資規制、英国・スウェーデンの金融規制などの手続が未了であり、クリアランス完了は2026年1月中旬以降、TOB開始は2026年2月以降を見込むと更新された。しかし2026年1月13日に必要クリアランスの取得を確認し、実際には2026年1月15日からTOBは開始された。

注目すべきは、時間が延びるほど「株価形成」「応募心理」「アクティビストの組織化」が進みやすい点である。ディスカウントTOBは、平時には合理的に見えても、時間が経てば経つほど“逆ザヤ”になりやすい。逆ザヤが続けば、市場で売った方が高いという単純な合理性が働き、下限条件の達成が難しくなる。現代の非公開化は、価格設計だけでなく「時間設計」が勝敗を分ける取引である。多法域規制の時代においては、規制対応を前提にしたコミュニケーション、利益相反の見え方の制御、そして少数株主保護の論理武装を、取引発表と同時に完成度高く用意しておく必要がある。

関連レポート:ディスカウントTOBを成立させる条件設計

ディスカウントTOBは、価格の妥当性だけでなく、手続の公正性と少数株主の納得形成をどこまで積み上げられるかで成否が分かれる。本件の論点を深掘りする参考として、当社が対象会社のファイナンシャル・アドバイザー(FA)として関与し、ディスカウントTOBでありながら成立に至った事例の一つである、2024年9月公表のティーガイアTOBを取り上げたレポートを紹介する。同レポートでは、MoM条件、特別委員会との実務連携、三段階スキームの活用といった観点から、少数株主の納得を支えた条件設計の要点を整理している。

▼レポートはこちら

レポート01「ケーススタディ:ディスカウントTOBがなぜ成立したのか?」

ホワイトペーパー、レポート01「ケーススタディ:ディスカウントTOBがなぜ成立したのか?」

出典・参考資料

本記事は公開情報に基づく一般的な情報提供を目的としたものであり、当社が内容の正確性・網羅性・最新性を保証するものではありません。また、特定の投資判断や法律・会計・税務に関する助言を行うものではありません。これらの事項については、必ず弁護士、公認会計士、税理士などの専門家にご確認ください。本記事の利用により生じたいかなる損害についても、当社は一切の責任を負いかねます。

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