COLUMNコラム
【BAPディールインサイト】MoMはなぜ重要なのか?少数株主の意思確認を取引条件に組み込む意味
2026.2.6
上場企業のM&AでMoMが検討対象になりやすい局面と条件設計の考え方
価格が争点になりやすい取引で、MoMは公正性の説明材料や条件交渉の根拠になる
価格だけでは説明しきれない局面が増えている
上場企業の完全子会社化や支配株主が関与する取引では、「価格が妥当か」をめぐって見方が分かれやすい。とくに少数株主の側からは、情報の非対称性や利益相反を意識せざるを得ず、取締役会としても説明責任のハードルが上がる。
このような局面で検討対象になりやすいのがMoM(Majority of Minority)である。MoMは、少数株主の意思が取引の成立に影響する形を取引条件に織り込む考え方であり、少数株主の意向次第で取引の成立確度を過度に低くするリスクがある一方、設計の工夫次第では「公正性の説明」と「条件改善の交渉」を前に進めやすくする効果が見込まれる。
本稿では、MoMの基本、MoMが論点になりやすい理由、検討対象になりやすい局面、意思決定に使える条件設計の考え方を整理し、押さえるべきポイントを紹介する。
MoMとは何か:少数株主の意思を「成立要件」に入れる考え方
MoMは、利害関係を持つ株主(たとえば支配株主等)を除いた少数株主の過半数が取引条件に賛同しているかどうかを、取引の成立に反映させる枠組みである。
典型的には、公開買付け(TOB)の成立要件として「支配株主等を除く少数株主の過半数が応募していなければ成立しない」といった条件が設定される。これにより、少数株主の意思が形式的な“参考情報”ではなく、成立の前提として扱われる。
この特徴は実務上重要である。MoMを設定すると、買収者側も「成立させるには少数株主が納得する条件が必要」という制約を受ける。そのため、条件設計の議論が避けにくくなり、対象会社側が説明と交渉を進める余地が生まれやすい。
なぜMoMが論点になるのか:説明の材料になり、交渉の根拠にもなる
MoMが実務で評価される理由は、大きく二つに整理できる。
一つ目は、公正性の説明がしやすくなる点である。支配株主が関与する完全子会社化では、外形的に“利益相反があり得る取引”として見られやすい。MoMを成立要件に入れておけば、利害関係のない少数株主の過半数が納得して応募した、という事実を示せるため、取締役会の説明の材料になりやすい。もちろん、それだけで公正性が自動的に担保されるわけではないが、説明の補強としては有力である。
二つ目は、条件改善を求める交渉の根拠になりやすい点である。MoMを達成できないと成立しない以上、買収者側は“成立可能性”を考えて条件を組み立てる必要がある。対象会社側(特別委員会を含む)としても、「成立要件を満たす必要がある」という理由で条件改善を求めやすくなる。感情論ではなく、制度上の要請として議論できることが、実務上の強みである。
MoMを設定すべき局面:争点が「価格」だけでは収まりにくいとき
MoMが検討対象になりやすいのは、少数株主の納得が取引の成否や取締役会の説明に直結しやすい局面である。
代表例は、価格水準が争点化しやすい取引である。たとえばTOB価格が市場価格を下回る、いわゆるディスカウントTOBは、プレミアムが付く通常のTOBと比べて、少数株主が「なぜこの価格なのか」と感じやすい。そうした局面では、MoMを入れることで、少数株主の意思確認を取引条件に組み込みやすい。
また、支配株主や経営者が関与する完全子会社化は、構造的に利益相反が疑われやすい。情報の非対称性が避けにくく、少数株主にとって判断が難しいため、公正性担保措置としてMoMを含む設計が論点になりやすい。
さらに、特別委員会を設置する局面では、特別委員会が価格や条件の検討・交渉に関与することが一般的に期待される。MoMは、特別委員会の検討や交渉の結果を、取引条件として明確な形に落とし込みやすい点でも相性がよい。
「意思決定に使える」MoMの条件:少数株主の定義と特別委員会との関係
MoMは、「設定するかしないか」の二択というより、条件設計まで含めて意思決定するテーマになりやすい。実務で特に重要になりやすい観点を、2つに絞って整理する。
第一に、誰を「少数株主」と扱うかである。支配株主等を除外するのは基本として、ETF等をどう扱うか、実質的な利害関係がある株主をどう整理するかは、設計の難所になりやすい。定義が曖昧だと、後から説明が難しくなる。
第二に、特別委員会との関係である。MoMだけを置いても、特別委員会の独立性や検討プロセス、交渉の実効性が弱いと、少数株主の納得につながりにくい。特別委員会にどの範囲で交渉や検証を担ってもらうか、取締役会としてどう位置づけるかを含めて考えるほうが、結果的に説明はしやすい。
要するに、MoMを「形式的な条件」として扱うのではなく、少数株主の定義と特別委員会の関与をセットで見て、説明の筋が通る形を作れるかが大切になる。
昨今のTOB実務においては、取引の成立確度を下げるリスクの観点からMoMの設定は避けられる傾向にあるが、今後の取引においてはMoMの設定についてより慎重な検討が望まれる。
事例:ティーガイア案件で見えたMoMの実装ポイント
当社が対象会社のファイナンシャル・アドバイザー(FA)として関与し、ディスカウントTOBでありながら成立に至った事例の一つである、2024年9月公表のティーガイア案件は、ディスカウントTOBという難しい条件のもとで、MoMを成立要件に組み込んだ事例である。公開買付価格は2,670円で、前営業日終値3,635円に対して26.7%のディスカウントであった。価格が争点になりやすい前提があったからこそ、少数株主の意思確認を取引条件に入れる設計が採られている。
この案件で押さえておきたいのは、価格と条件設計が一体で議論されている点である。特別委員会は買収者側と交渉し、当初提示から価格が引き上げられた経緯が示されている。さらに、ディスカウント率が25%を超える水準になることを踏まえ、少数株主の意思確認手続としてMoMが設定された。
加えて、少数株主側の成立要件(下限)の考え方も重要である。買付下限はETF等を除いた流動株ベースで、少数株主持株比率の過半数以上に設定され、少数株主の応募が過半数に達しなければ自動的に不成立となることで、「納得できたら応募する」という意思が制度的に織り込まれていた。
結果として、MoMの成立要件を上回る応募が集まっている。もちろん、応募が多いことだけで全てが説明できるわけではないが、ディスカウント局面でも、価格の見直し、MoMの成立要件、特別委員会の関与を組み合わせることで、取引の成立と説明の両方を支え得る、という点は示唆される。
まとめ:MoMは、説明の材料と交渉の根拠を増やす
MoMは、少数株主の意思確認を取引の成立に反映させる枠組みである。利益相反や情報の非対称性が問題になりやすい取引では、取締役会の説明を補助し、条件改善の議論を進める根拠にもなり得る。
一方で、MoMは設定すれば十分というものではない。成立可能性を踏まえた水準設定、少数株主の定義の整理、特別委員会の検討・交渉の実効性など、条件設計を詰める必要がある。ティーガイア案件は、価格が争点化しやすい状況でも、価格交渉とMoMを組み合わせ、少数株主の意思が成立に影響する形を作った例として参考になる。
上場企業のM&Aでは、説明責任が厳しくなるほど、制度面の工夫が重要になる。MoMはその一つとして、取引の設計段階で検討に値する選択肢である。
関連レポート:ディスカウントTOBを成立させる条件設計
本稿で取り上げたティーガイアの事例をもとに、ディスカウントTOBを成立させる条件について解説したレポートを紹介する。同レポートでは、MoM条件、特別委員会との実務連携、三段階スキームの活用といった観点から、少数株主の納得を支えた条件設計の要点を整理している。
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