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COLUMNコラム

企業不祥事が多発する理由

2026.3.26

1.始めに
昨今、企業の不祥事が目立つが、その多くはコンプライアンス違反が原因である。このような不祥事は芸能界や放送業界に限らず、政治の世界でも取り上げられることが多い。
その経緯は多岐に亘るが、一つの原因は社会の蛸壺化であろう。言葉を変えれば、独特の業界の中では、常識とされる事でも、一般社会においては許容されないということである。もっとも、そのこと自体は、昔からある訳で、それが現代社会で特に問題となるのは業界間、世代間のギャップが激しくなってきているということであろう。
以下では、企業不祥事が多発する背景を、法令違反の有無にとどまらず、社会構造と人権意識の変化という観点から考察する。

2.社会の変化
思えば、この30年の社会の変化、法律の変化は激しいものがある。しかしながら、30年前に社会人であった者は「この30年で時代は変わったな」との思いは抱くが、既に存在する社会のルールを当然の前提としている若者とのギャップは激しい。今の20代はパワハラ、セクハラが法律的に規制された後に社会人になっている以上、「昔はこれ位は許された」と感じる世代とのギャップはとりわけ顕著になっている。例えば、企業におけるパワハラ防止措置を義務化する労働施策総合推進法は(大企業にとっては)2020年の施行、男女雇用機会均等法に基づくセクハラ防止義務は2007年の施行である(※1)。
では、若者は皆法律を守るかというと必ずしもそうではない。人は見たいものをみ、見たくないものは見ないというのは昔からの習性である(※2)。

図解1

問題なのは、このようなギャップによって生じたコンプライアンス違反行為は道徳的是正の対象になりやすいということである。つまり財産や権力を獲得するのと異なり、道徳的是正は誰でも求めやすい(手に入れやすい)ものであるという特徴を有する。従って、道徳的違反行為があれば、人はそれを糾弾しやすく、また現代社会では拡散しやすい(※3)。そのことをまた企業も自覚していく必要がある。

図解2

これに対して、「昔の方が社会が寛容だった」と懐かしむ人がいたとしてもおかしくない。しかし、昔とは企業と人の関係が異なっている。昔は終身雇用の社会であり、会社は定年時まで、従業員の面倒を見ようという意欲があった(後述する最高裁も「企業における雇傭関係が、単なる物理的労働力の提供の関係を超えて、一種の継続的な人間関係として相互信頼を要請するところが少なくなく、わが国におけるようにいわゆる終身雇傭制が行なわれている社会では一層そうである」と判示する)。しかし現代では、そこまでのコミットがなされることは少ない。その反面、従業員としても従来並の忠誠心を示す意欲も少なくなる。以上が、今日、コンプライアンスが重要視される1つの理由であろう。

図解3

3.人権との関係
もっともこのように説明するとコンプライアンスの重要性を軽視しているのではないかとの疑問もあり得よう。そこでもう少し法律的に説明すると、パワハラにせよセクハラにせよその根本には「人権侵害は許すべきでない」との考えがある。このような人権概念の強化は、企業活動においても無関係ではなく、今日のコンプライアンス強化と密接に結びついている。
もっとも、こう言われると「確かに人権は重要だよね」ということで議論が終了する傾向がある。その理由は、人権というものが非常に抽象的で分かりにくい概念であること、特にアジア社会の考え方と整合しないのではないかと言われることがある(※4)。確かに日本国憲法でいう人権は西欧的価値観に基づいている部分が大きい。この西欧的価値観というものも非常に分かりにくい。例えば、欧州では公平性が重視されると言われ、米国では自由が重視されると言われる(※5)。

図解4

しかも今の政治情勢を見ると、「人権が大事」と言っていた国が他国に対して軍事的な行動をとったりと、非常に分かりにくい情勢があり、結局人権とは何なのかと思う人も多いかと思う。従って、究極的には「人権とは何なのか」という点を掘り下げていくことが大事であろう。ここで重要なことは、人権を巡る議論は時間的、場所的にも様々な展開がなされてきた概念であるということである。ここでは、2つの視点のみ示しておきたい。
1つは、今でも海外ではクーデター等により多くの人権が侵害されるケースがあるということである。勿論、クーデターの原因も色々あるので、一概にクーデターが悪いとも断言しにくい。しかしクーデターによって人権を侵害された人、特に一般人への人権侵害は無視できないものである(※6)。現にそういう特殊な状況下では、財産を突如没収されたり、不当な拘束を受けるケースは散見される。にもかかわらず、これらの事件を「遠い世界の事件であり、自分には関係ない」と考えることは適当だろうか。例えば、近くの国で似たようなことが起きたらどうなのだろうか。仮にそういう事態は「自分には関係ない」と思ってしまった場合、「自分の身に危機が迫っても外部の人は助けてくれない」ということになりはしないかという懸念もまた重要である。

図解5

2つ目に、日本における憲法学的には、「人権は本来国家に対して主張できるものである」という考えが初めに立つ(後述する最高裁も「憲法の右各規定は、同法第三章のその他の自由権的基本権の保障規定と同じく、国または公共団体の統治行動に対して個人の基本的な自由と平等を保障する目的に出たもので、もつぱら国または公共団体と個人との関係を規律するものであり、私人相互の関係を直接規律することを予定するものではない。」と指摘する)。
そうすると、例えば民間企業が思想を理由に個人の採用を拒否した場合、思想・良心の自由(憲法19条)は保護される必要はないのかという議論が生じる。現に最高裁はいわゆる間接適用説な見解にたち、不法行為の解釈の中で、人権は考慮する(「私的自治に対する一般的制限規定である民法一条、九〇条や不法行為に関する諸規定等の適切な運用によつて、一面で私的自治の原則を尊重しながら、他面で社会的許容性の限度を超える侵害に対し基本的な自由や平等の利益を保護し、その間の適切な調整を図る方途も存するのである。」)という見解にたち、採用拒否を適法と判断した(※7)。もっとも実際の事件では、その後和解が成立し、当該個人は当該民間企業及び同グループ会社にて長年勤務すると結果となったようである。
他方で、欧州を中心に世界的には「公権力だけが人権を侵害する訳でも保護できるわけでもない」ことから、「ビジネスと人権」というテーマが問題となり、日本の法務省もその啓蒙に努めている 。このように誠に人権という概念は難しいものであるが、我々が自由で民主的な国家を目指すのであれば、もう一度人権というものを見直す必要もあろう。

図解6

4.最後に
以上述べたことをまとめると、企業不祥事は「悪意」というより「認識のズレ」から生じやすいということである。しかも現代社会においては、単純な法令遵守だけでなく、社会的期待・人権意識への感度が問われている。その意味で、企業には継続的な教育と共に 世代間格差・価値観の格差の橋渡しが求められているといえる。

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■1 詳細は、厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために(セクシュアルハラスメント/妊娠・出産等、育児・介護休業等に関するハラスメント/パワーハラスメント)」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/seisaku06/index.html参照のこと。
■2 ユリウス・カエサルは「多くの人は、見たいと欲する現実しか見ていない」と発言したと言われ、確証バイアスの一例といえる。
■3 この点に関しては、例えば橘玲「わたしたちは道徳が過剰になった世界に生きている。「道徳的絶対主義」では、プライベートはそれ自体が政治になるため、妥協はありえず、逃げ道もない」DIAMOND online (2024年12月26日)https://diamond.jp/articles/-/356558参照のこと。
■4 この点の詳細は、堤功一「グローバル化時代のアジアの人権」立命館法学2000年3・4号上巻(271・272号)https://www.ritsumei.ac.jp/acd/cg/law/lex/00-34/tutumi.htm参照のこと。
■5 この点の詳細は、古田裕清「コンプライアンスの源流と来歴」Chuo Online https://www.yomiuri.co.jp/adv/chuo/research/20160915.html参照のこと。
■6 例えば、ミャンマーでの人権侵害問題については、笠原真「人権侵害はミャンマーの将来奪う 不信広まる社会、生き抜く「術」は」朝日新聞オンライン(2026年2月1日)https://www.asahi.com/articles/ASV212J4PV21UHBI021M.html参照のこと。
■7 最高裁の全文は最大判昭和48・12・12(民集 第27巻11号1536頁)https://www.courts.go.jp/hanrei/51931/detail2/index.html参照のこと。
■8 詳細は、法務省「ビジネスと人権」https://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken04_00090.html経済産業省「ビジネスと人権~責任あるバリューチェーンに向けて~ (METI/経済産業省)」参照のこと。
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執筆者:柴原 多
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