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【BAPディールインサイト】戦略的カーブアウトで売るべき事業はどう見極めるのか

2026.4.10

いま、「黒字でも手放す」判断が問われている

足元の損益だけで決めない、事業ポートフォリオ見直しの実務論点

変わりゆくカーブアウトの潮流

国内企業のM&Aにおけるカーブアウト(子会社や一事業部門を切り出して第三者に譲渡する取引形態)といえば、従来は「選択と集中」により長年赤字を抱える不採算事業や、構造不況に陥った低収益事業を切り離す動き、いわゆる消極的カーブアウトが中心だった。しかし近年、議論の中心は明らかに変わってきている。

いまカーブアウトの検討対象となっているのは、収益性は高い一方で、自社の中長期戦略との整合性が弱い事業である。ノンコア事業をどう位置づけ、「持ち続けるのか、それとも切り出すのか」を判断することが、企業価値向上の実務において避けて通れない論点になっている。

背景にあるのは、限られた経営資源をより戦略適合性の高い事業へ再配分すべきであるという考え方だ。収益を生んでいる事業であっても、成長投資の受け皿になりにくく、自社の将来像と噛み合わないのであれば、その事業を保有し続けること自体が最適とは限らない。そこで、事業の売却で得た資金や経営資源を新たな成長領域やコア事業の強化に振り向ける。これがいま注目を集める「戦略的カーブアウト」である。

この流れを支えているのが、近年のコーポレートガバナンス改革である。東京証券取引所が2015年6月から適用を始めたコーポレートガバナンス・コードは、取締役会に対して中長期的な企業価値向上に向けた企業戦略の方向づけや、収益力・資本効率の改善を求めている。また、経済産業省が2020年7月に公表した事業再編実務指針は、事業ポートフォリオの継続的な見直しや資本収益性・成長性・ベストオーナーの観点からの事業評価を示している。さらに2023年3月には、東京証券取引所による「資本コストや株価を意識した経営」の要請もあり、企業は保有事業をどう持ち続け、どう手放すかをより厳しく問われるようになった。

日本では、事業の買収は増えてきた一方で、事業や子会社の売却は十分に進んできたとは言いにくい。つまり、「買う」判断に比べて「手放す」判断は難しく、先送りにされやすい。だが、コロナ禍を経た財務体質の見直し、重点領域への投資シフト、アクティビストからの要求などを踏まえると、論点はもはや「売るかどうか」だけではなく、売却で得た資金や経営資源をどこに再配分するのかまで含めて考えることが、経営の実務において求められている。

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なぜ「稼いでいる事業」を手放すのか

戦略的カーブアウトにおいて、収益性は高くても戦略適合性が低い事業をどう評価すべきか。ここで重要なのは、売るべき事業の見極めが、足元の損益だけでは決まらないという点である。

経営の目的は、現状の利益を守り続けることそのものではなく、中長期で企業価値を高めることである。その観点から見ると、いま利益を出している事業でも、将来の成長余地が乏しく、自社の資本や人材を長く拘束してしまうなら、見えにくい機会損失を生んでいる可能性がある。

この点を整理するうえで有効なのが、全事業を「資本収益性」と「市場成長性」の2軸で捉える見方である。たとえば、低収益かつ低成長の事業は、従来から整理対象として議論されやすい。一方で、高収益かつ高成長の事業は、全社の成長を牽引するため優先的に資源を投下すべき領域となる。低収益だが高成長の事業は、将来の柱になり得る半面、投資の見極めが遅れると資本効率を損なう。そして最も判断が難しいのが、高収益だが低成長の成熟事業である。

この成熟事業は、しばしば安定収益を生む存在として社内で重視される。ただ、その安定が将来の成長の鈍さと表裏一体であるなら、単に「稼いでいるから残す」とは言えない。まさにここが、戦略的カーブアウトの中心論点になる。

「資本収益性」と「成長性」を正しく評価する

では、どのようにして事業の実態を捉えるべきか。まず資本収益性の把握においては、ROIC(Return On Invested Capital:投下資本利益率)が有力な指標となる。ROICは、投下した資本に対してどれだけ利益を生んでいるかを見る指標であり、資本コストとの比較もしやすい。全社ベースだけでなく、事業単位に落として議論しやすい点でも実務に向いている。

ROICの代表的な算定式としては、「ROIC=税引後営業利益 ÷ 投下資本」がある。ここでいう税引後営業利益は「営業利益 × (1−税率)」、投下資本は「有利子負債+株主資本」 とするのが一般的だ。さらに、ROICは「ROIC=売上高営業利益率 × 投下資本回転率 ×(1−税率)」と分解して考えることもできる。こうして売上高営業利益率と投下資本回転率に分解していくと、事業の収益構造がより具体的に見えてくる。利益率が低いのか、資産効率が悪いのか。どこに課題があるのかを現場のKPIまで落として考えられるようになる。

もっとも、評価は自社内の基準だけで完結しない。その事業を専業で営む競合他社と比べたとき、自社は本当にその事業の価値を最大化できる保有主体なのかという視点も欠かせない。ここで重要になるのが、ベストオーナーという考え方である。その事業価値を最も高められる企業(=ベストオーナー)が自社でないと判断される場合は、その事業を抱え続ける合理性は薄くなる。

また、資本コストの考え方も全社一律に捉えるべきではない。同じ会社の中でも、事業ごとに市場環境や競争構造、事業モデルは異なり、求められるリターン水準も自ずと変わるからだ。したがって、リスクとリターンの性質が近い事業ごとにセグメントを切り、その単位で資本コストを把握することが望ましい。資本コストを下回る状態が一時的ではなく構造化しているなら、その事業は再構築か第三者への譲渡を早めに検討すべきである。

もう一つの軸である成長性についても、単に市場が伸びているかどうかだけでは判断できない。市場成長率や自社シェア、売上高・利益成長率、さらには投下資本の増加率などの数字を見るのはもちろん重要である。だがそれに加えて、自社がその事業を今後も成長させられるだけの技術や人材、営業基盤、そして経営資源を持っているかという視点が必要になる。

また、成長性は見かけ上の増収ではなく、既存事業を自社の力でどれだけ伸ばせるかで見るべきである。買収による上積みや組み換えによる見かけの増減ではなく、事業そのものをどこまで拡大できるのか。そこを見ないまま投資を続けると、回収期間が長引き、結果として資本効率を圧迫する。

最終判断の軸となる「戦略適合性」

事業の取捨選択は、数値だけで決まるものではない。資本収益性と成長性の分析を土台に据えつつ、さらに自社との「戦略適合性」を見極める必要がある。

具体的には、その事業が自社の企業理念や中長期方針と整合しているか、将来のビジネスモデルにつながっているか、他事業とのシナジーは実際に見込めるのか、それとも社内の期待が先行しているだけなのか。こうした点を一つひとつ丁寧に見ていかなければならない。

多角化には一定の意義がある。一方で、事業が増えることで組織が複雑化し、意思決定が遅れ、経営の焦点がぼやけるのであれば、その複雑さ自体がコストになる。いわゆるコングロマリット・ディスカウントの問題である。事業を保有し続けることで得られる便益が、管理コストや機会損失を本当に上回っているのか。この点は厳しく見極める必要がある。

その結果、たとえ足元では優良な黒字の成熟事業であっても、自社が持ち続けることが最善でない(=ベストオーナーではない)のであれば、切り出しは十分に合理的な選択肢となる。戦略的カーブアウトは、まさにこうした視点に立って検討されるべきものだ。

さらに、この判断は株主価値の向上だけで完結するものではない。従業員、取引先、顧客を含むステークホルダーにとって、その事業がどのような形で持続的に成長していけるのかという観点も欠かせない。売却の是非は、資本効率の改善だけでなく、事業の継続性や成長を担う主体をどう確保するかまで含めて考える必要がある。

カーブアウトを成功に導く実務的なアプローチ

もっとも、対象事業の売却方針が固まったからといって、すぐに入札プロセスへ進めばよいわけではない。カーブアウトディールは検討すべき論点が多岐にわたるため、準備フェーズの難易度が格段に高いからだ。譲渡範囲の決定、承継対象となる人材の選定、独立運営に必要な機能(スタンドアロンイシュー)の整理、譲渡対象財務諸表や事業計画の再構築、従業員の心情面への配慮といった課題は、いずれも部門横断的かつ高い精度での対応が求められる。

こうした実務上の論点を整理し、カーブアウト案件を初めて担当する方でも全体像をつかめるようにまとめたのが、当社のレポート「実践ガイド:カーブアウト案件の舞台裏」である。本レポートでは、準備段階で鍵となる譲渡範囲の切り分け、スタンドアロンイシュー、財務諸表・事業計画の再作成、人材承継と心情面への配慮に加え、ストラクチャーの検討やTSA(移行期間サービス契約)の交渉までを、架空の担当者のストーリーを通じて具体的に解説している。

関連レポート:カーブアウト案件の舞台裏

出典・参考資料

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