COLUMNコラム
アクティビストによる上場企業への経営関与の活発化と企業が取るべき対応方法
2025.7.28
近年、上場企業の経営環境は大きく変化しています。アクティビストによる企業経営への関与が活発化し、規模の大小を問わず多くの上場企業がアクティビストの投資ターゲットとなっています。このような環境において、上場企業はどのような戦略を取るべきなのでしょうか。今回は、アクティビストによるコーポレートアクションが増加した背景と企業経営者がとるべき対応について、ビヨンドアーチパートナーズの樺澤MDと小林MDにお話を伺いました。
アクティビストによる上場企業へのコーポレートアクションの増加
――近年、上場企業がアクティビストから圧力を受けるケースが増えているようですが、その背景について教えてください。
小林:アクティビストとは、市場での株式買付により株主となったうえで、経営者との対話や株主提案などを通じて株価を上げリターンを得ることを目的とした投資家のことです。具体的には、投資先に対し取締役の変更、株主還元の実施、非公開化などを提案し、対外的に大々的なキャンペーンを実施し耳目を集めるケースもみられます。日本において、上場企業の資本効率の低さとPBR(株価純資産倍率)の低迷は予てから指摘されていましたが、昨今、アクティビストが活動しやすい環境へと変化しており、割安な日本企業に着目した海外のアクティビスト投資家による投資が活発化しています。
――なぜアクティビストが活動しやすい環境になっているのでしょうか。
樺澤:大きく以下の3つの要因が背景にあります。
- ・コーポレートガバナンス改革の影響
- ・政策保有株式の削減
- ・企業買収における行動指針の策定
――それぞれの要因について、順番に教えてください。
コーポレートガバナンス改革の影響
――まずコーポレートガバナンス改革の影響についてはいかがでしょうか。
小林:コーポレートガバナンス改革とは、企業が経営の透明性を確保し、投資家との対話等を通じて、株主の権利や利益を尊重することにより、日本企業の中長期的な企業価値・株式価値の向上を目指す、金融庁が中心となり進めている施策です。その一環として東京証券取引所が公表しているコーポレートガバナンス・コードは、上場企業に以下のような取り組みを求めています。
- ・株主価値の向上:株主の利益を守り、長期的な企業価値の向上を目指す
- ・経営の透明性確保:情報開示の拡充や外部からの監視機能の強化
- ・取締役会の説明責任強化:株主や社会に対する取締役会の説明責任を明確化
- ・不正防止・リスク管理:内部統制の強化による不祥事防止
――この改革がアクティビストにどのような影響を与えているのでしょうか。
樺澤:一連のコーポレートガバナンス改革は、端的に「会社は株主のもの」「経営者は株主価値向上の責務を負う」という原理原則を明示したものと言えます。これまでは株価と経営者の責任は直接的にリンクしていませんでしたが、コーポレートガバナンス改革を通じ、株価向上に向けた取り組みは経営者の責務であるという思考は一般的にも受け入れられてきています。アクティビストにとってみれば、この流れに乗り「株主価値向上のため」という大義名分のもと、経営陣に対して提案や要求を行いやすくなったと言えます。
政策保有株式の削減
――政策保有株式の削減についても教えてください。
樺澤:政策保有株式とは、投資目的ではなく取引関係の安定化などを目的に取引先企業等と相互に保有する株式のことです。政策保有株式の株主は通常は会社にとって安定株主となりますが、上場会社において純粋に投資リターンを求める株主のメリット(株主共同の利益)を害している可能性が指摘されており、投資家からコーポレートガバナンス上の問題点とみられています。
――アクティビストにはどのような影響を与えたのでしょうか。
小林:上場会社における安定株主が減ったことにより、アクティビストによる経営者への影響力は増したと言えます。また、株式市場で流通する株式数が増えたことで、市場での買付がしやすくなった可能性があります。
企業買収における行動指針の策定
――企業買収における行動指針の策定についてはいかがでしょうか。
樺澤:企業買収における行動指針とは、上場企業のM&Aを進める際に企業が従うべき原則を規定した経済産業省によるガイドラインです。この指針の目的は、上場企業のM&Aにおける少数株主の権利保護のプロセスやその透明性に関する考え方を提示することであり、以下の原則が記述されています。
- ・望ましい買収か否かは企業価値・株主共同の利益となるかを基準に判断される
- ・会社の経営支配権移動は株主の合理的な意思により決定される
- ・株主の判断のために有益な情報が、買収者と会社から適切かつ積極的に提供され透明性が確保される
樺澤:この指針が発表されてから、上場企業が真摯な買収提案を受けた場合、取締役は真摯に検討することが求められ、容易に拒否しにくい状況となったと言えます。
ビヨンドアーチパートナーズのアクティビスト対応
――このような環境変化に対して、ビヨンドアーチパートナーズではどのような支援を提供しているのでしょうか。
樺澤:弊社はアクティビストに対して、以下3つのアプローチで支援しています。
- ・企業価値向上
- ・株主対応
- ・買収提案対応
企業価値向上
――まずは企業価値向上について詳しく聞かせてください。
小林:企業価値向上を目的とした経営戦略または中期経営計画の策定支援を提供しています。アクティビストが圧力をかける根本的な要因は、株価が上がっていない状況にあります。これを解決するため、株主目線を意識した企業価値向上施策の策定につきアドバイスを実施します。具体的には、市場分析、競合分析等のビジネス・デューディリジェンスによる課題把握、注力分野や施策・行動計画の策定、これらを踏まえた中期経営計画の策定または見直し、資金調達などをサポートします。
樺澤:株価を意識したIR戦略、PR活動に関しても支援しています。例えば中期経営計画を作成した後の株主とのコミュニケーションについて、メディア向けの情報発信方針、株主向け資料の作成、説明会の実施などに関しアドバイスします。
小林:企業価値向上戦略としてのM&A実行支援も行っています。中期経営計画で示した成長方向性を踏まえた積極的・戦略的な買収は、資本収益性を高めるのみならず、投資家の成長期待を高めることを通じ企業価値・株式価値の向上に資すると考えます。また、複数の事業を展開している企業では、注力領域ではない事業を外部に譲渡しその資金で注力事業を強化するといった、戦略的な事業ポートフォリオの見直しも企業価値・株式価値の向上に有効なアプローチと言えます。
樺澤:企業価値向上を目的に適切な取り組みを行い、投資家に対し真摯に向き合っている企業には、アクティビストが干渉する余地は限られます。そして株価が上がれば、アクティビストはおのずと株式を売却して退出するのではないかと考えます。
株主対応
――次に株主対応についてはいかがでしょうか。
樺澤:まず株主名簿管理人である信託銀行等から株主名簿を取得し、名義株主と実質株主(名義株主の背後にいる投資家等)の識別を行います。その後アクティビストを特定し、属性を理解したうえで、コミュニケーション方針を整理し、対応方法・内容等についてアドバイスします。
小林:株主からの面談要請、レター、Q&Aに対する評価・シミュレーション、対応策の検討支援も実施しています。株主から面談の申し入れがあった場合、経営者は想定される質問や要求への準備をしつつ、インサイダー取引規制などにも留意した繊細なコミュニケーションを実施しなければなりません。その対応方法や留意点、想定Q&Aなどの対策を提供します。
樺澤:株主総会におけるプロキシーファイト(委任状闘争。株主総会で重要事項の承認を得るため、経営陣とそれに反対する株主が、一般株主の委任状取得を競うこと)に至った場合は、株主総会対応も支援します。
買収提案対応
――買収提案対応はどのような支援でしょうか。
小林:1つは「同意なき買収」提案への対応支援や、戦略的選択肢(買収提案内容の評価、ベストパートナーの探索、自己株買いによる上場維持等)の検討に関するアドバイスなどです。
――どのようなイメージでしょうか。具体例があれば教えてください。
小林:上場企業A社がB社からいわゆる「同意なき買収」に関する真摯な提案を受けた場合、A社は「企業買収における行動指針」に基づき真摯な検討を実施し、買収提案を評価しB社に対して回答することが想定されます。A社として、B社による買収を進めると企業価値毀損につながるおそれがある場合、B社以外のベストパートナーを募って買収提案を受領するという対策が考えられます。このように、現状を踏まえてどのような対策が考えられるか、どのように実現するかという道筋を検討し、アドバイスを提供します。
樺澤:特別委員会の運営支援も実施しています。特別委員会とは、少数株主を代表して、株主の利益を踏まえて取引の公正性や妥当性を判断する組織です。買収提案が具体化すると、特別委員会では多くて数十回もの会議が開催されます。委員の方々は、買収価格の妥当性や取引条件の評価といった複雑な検討をしなければなりません。そこで弊社は、対象会社及び特別委員会のアドバイザーとして検証ポイントを明確にしながら討議が円滑に進むよう支援しています。
企業価値向上を軸にした戦略的なアクティビスト対応を
小林:昨今の環境変化により、上場企業はアクティビストからの圧力を受けやすい構図となっています。企業価値向上に向けた適切な戦略と実行により、平時においてアクティビストからの干渉を受けにくい状況を醸成することが肝要です。
樺澤:ビヨンドアーチパートナーズは、企業価値向上、株主対応、買収提案対応の3つのアプローチで、クライアントの皆様が持続的な成長を通じ企業価値向上を実現できるよう伴走いたします。アクティビスト対応について、より詳しい情報やご相談をご希望の方は、お気軽にお問い合わせください。