COLUMNコラム
【BAPクローズアップ案件】台湾の大手電子部品メーカー ヤゲオ(国巨)による芝浦電子買収
2025.10.21
芝浦電子を巡るヤゲオとミネベアミツミのTOB攻防
最終買付価格は1株7,130円 外為法承認と雇用維持の誓約、ホワイトナイト出現の中で賛同転換を導いた条件設計とは
今回のM&Aサマリ
芝浦電子(証券コード6957)はサーミスタ(温度センサー)などを製造する中堅電子部品メーカーである。芝浦電子を巡って、2025年に台湾の電子部品メーカーであるヤゲオ(国巨)と、日本のミネベアミツミとの間で異例の長期にわたるTOB(株式公開買付け)争奪戦が繰り広げられた。発端はヤゲオが芝浦電子の合意なしに買収を仕掛けたことで、芝浦電子は当初これに抵抗しホワイトナイトとしてミネベアミツミを迎え入れた。その後、TOB価格の競り上げ合戦や外為法(外国為替及び外国貿易法)に基づく政府審査による長期化を経て、最終的にはヤゲオ側のTOBが成立し、芝浦電子はヤゲオグループ傘下に入ることとなった。YAGEOにとっては自社の販売ネットワークと芝浦電子のサーミスタ技術を組み合わせることでグローバル市場を開拓する狙いがあり、買付けの背景には需要の伸びる自動車や産業機器向けの温度センサー事業を取り込みたい思惑がある。

成立までのタイムラインと主要マイルストーン
最終結果とステークホルダーの姿勢変遷の要点
今回の争奪戦は、ヤゲオの提示額が当初の1株4,300円から最終的に7,130円まで吊り上がり、TOB期間も度重なる延長で長期戦のTOB合戦となった。その過程で各社の対応姿勢も大きく変化している。当初、芝浦電子はヤゲオによる同意なき買収提案に強く反発し、経営陣はミネベアミツミを支持してホワイトナイトとして迎え入れた。しかしヤゲオがプレミアム大幅増額や政府承認取得、さらには経営・雇用維持の約束など懸念払拭のための誠意を示すに至り、最終的には芝浦電子はヤゲオ案への賛同に転じている。ミネベアミツミは芝浦電子と技術面の親和性や国内雇用維持を訴えて買収に挑み、価格面でも対抗したが、ヤゲオの資金力と徹底抗戦の前に途中で競り合いを断念し撤退。ヤゲオは一貫して芝浦電子買収への強い意志を示し続け、価格引上げや条件改善を重ねることで株主と当局の両方を説得し、最終的に買収を成就させた。
結果としてヤゲオのTOBは成立し、芝浦電子はヤゲオグループの傘下企業となる。このケースは、日本企業に対する外国企業の「同意なきTOB」がホワイトナイトの出現も含めて激しく競り合った末に外国企業側が勝利するという、日本のM&A史上でも珍しい事例となった。背景には芝浦電子の有するセンサー技術の重要性や、政府審査の厳格化などもあるが、最終的にヤゲオはそれらハードルを乗り越えて芝浦電子の経営権を取得した。今回のTOB合戦は、日本企業の買収防衛や外資規制のあり方にも一石を投じ、関係各方面に様々な教訓を残したと言える。
スキームの全体像と少数株主保護の要点
今回の取引スキームは公開買付けにより芝浦電子を完全子会社化するもので、株券等の買取り後に株式売渡請求や特別支配株主による株式等売渡請求を通じて上場廃止を予定している。公開買付けの期間中には外為法に基づく審査が行われ、ヤゲオは重要技術の流出防止や主要事業の第三者への売却禁止など政府の条件を受け入れた。承認取得後、公開買付届出書の訂正届出書を提出し、期間を10営業日延長するなど、手続きを適切に行っている。
少数株主保護の観点では、特別委員会や第三者算定機関による公正性評価に加え、ミネベアミツミによるホワイトナイト案が存在したことが競争原理として働いた。結果としてヤゲオが大幅なプレミアムを提示し、芝浦電子も応募推奨へ方針転換した。公開買付後は従業員の雇用維持や取引先との関係継続を含む合意書を締結しており、企業価値の源泉となるステークホルダーの保護にも配慮している。
出典・参考資料
- ・芝浦電子「YAGEO Electronics Japan合同会社による当社株式に対する公開買付けに関する意見の変更(賛同・応募推奨)についてのお知らせ」
- ・Reuters「Taiwan’s Yageo sweetens offer for Japan’s Shibaura, security clearance key」
- ・Reuters「Taiwan’s Yageo raises offer price for Japan’s Shibaura to 7,130 yen/share to further outbid rival」
- ・Reuters「Japan clears Taiwan’s Yageo in Shibaura bid after lengthy security review」

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