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コラム:<会計の世界史②>コーポレート・ファイナンスとお宝探し
2025.1.14
M&Aアドバイザーとして重要なスキルでもある会計。英語と並んでグローバルな共通言語と言われ、注目を集めている学問だが、学ぼうとすると何か固い、難しいイメージがあり、取り掛かりにくい。その会計を学ぶ上で、細かいルールや理論を学ぶのではなく歴史を学ぶという観点で、筆者個人的に非常にお勧めしたい書籍があり、その書籍を参考に会計の世界史について紹介したい。
参考書籍:「会計の世界史」 著者:田中靖浩 日本経済新聞出版
※シリーズ通してお読みください。
ナポレオンから引き継がれたもの
コーポレート・ファイナンスという新領域が発達したことで、企業の「未来」を評価するという視点が生まれたことは、「お宝企業」の発掘を促進することになった。
「お宝企業」とは、貸借対照表には表れないが技術・人財・ブランド・販売網などの「お宝」をもつ会社である。
コーポレート・ファイナンスという領域が生まれたころ、この「お宝」を探すことに長けていたのは、やはり銀行・証券会社であった。
ドイツの牛追いの息子であったマーカス・ゴールドマンは商業手形割引の手数料で地道にお金を稼ぐことから商売を始めたが、軌道に乗ったころで末娘の夫サミュエル・サックスを雇い入れ、社名をMゴールドマン・サックスとした。
また、マーカスの息子ヘンリーも会社に迎え入れ、ヘンリーは債権・株式の引受業務もはじめ、さらには数々の株式公開を企画立案し、成功していく。フォードの株式公開というビッグディールを成功させることでゴールドマン・サックスはウォール街でも有名な存在となった。
ゴールドマン・サックスは手形割引で地道に手数料を稼ぐことから始め、CP発行、株式公開に事業内容を広げ、「資金調達のお手伝い」を得意としていたが、コーポレート・ファイナンスという考えが生まれたころ、ゴールドマン・サックスの商売はこの「お手伝い」に留まらず、自ら株主になるようになる。価値が過小評価されている「お宝企業」の株式を5~7年保有した後、株式公開、売却によって大きな利益を生み出すようになったのである。
資金調達のお手伝いをしていたゴールドマン・サックスが「お宝企業」を探すのに(少なくとも素人よりは)長けていたことは必然であろう。
ゴールドマン・サックスを始め、銀行・証券会社ではコーポレート・ファイナンスによって「お宝」を含む企業価値を予測すること、加えて企業価値を向上させるノウハウを積み重ねた。
20世紀後半になると、企業価値を予測すること、その企業価値を向上させることのノウハウをもった専門集団である投資ファンドも続々と登場した。
こうしたコーポレート・ファイナンスの考え方、投資ファンドの登場は、会社の経営者に対して「自社の株式は割高なのか?割安なのか?」「企業価値を向上させる策は?」と自問させることになった。
自社に「お宝」が眠っているのであればそれを積極的にアピールしていかなければいけないし、企業価値向上のための施策があるのであればそれも開示しなければいけない。こういった「自分たちはお宝企業ですよ」というアピール行為が現在のIR活動である。
なお、コーポレート・ファイナンスを語る上では外せない、デュポン公式(※)は今から100年以上前、1910年には誕生している。
※ 利益/資本(ROI)=利益/売上(利益率)×売上/資本(回転率)
ROIという指標は、当時はデュポンにおいて「内部管理」目的に使われていた。
それまで会社の業績を評価する際には、損益計算書を見ればすぐにわかる売上高成長率や利益率で評価されることが一般的であったが、利益を稼ぐためには投資が必要であり、「投資の大きさ見合った利益」が重要であるという考えで、デュポンが自社を評価するために採用した指標である。
つまり、コーポレート・ファイナンスという考えから銀行・証券会社、投資ファンドの「お宝探し」が始まり、事業会社の「自分たちはお宝企業ですよ」というアピール行為が流行る前から、デュポンは自社がお宝企業なのかどうかを評価する術を身に着けていたのである。
100年以上たった今でも、「投資に見合った利益」という考えは経営の基本として考えられている。
ちなみに、デュポンはROIという「投資に見合った利益」という考えを社内に浸透させていき、事業部によって投資額も異なるだろうという考えから、1920年世界で初めて「事業部制(Division制)経営」を採用したといわれる。
Divisionとはもともとヨーロッパ各国を制圧したナポレオンが活用した「師団」を指す言葉であり、「分ける」を意味するDivideから命名されたとされる。「各Divisionが自律的に戦う」というナポレオンの思想が現在の会社経営にも引き継がれているのである。(続く)
執筆者:樺澤雄太郎
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※こちらもご参照ください。
「会計の世界史①:マイケル・ジャクソンに学ぶリターン思考」