【BAPクローズアップ案件】キリンHD、カナダのサプリメント大手Jamieson Wellnessを完全子会社化へ - M&A・事業再生ならビヨンドアーチパートナーズ株式会社/beyond-arch-partners | FAによる経営支援

BEYOND ARCH PARTNERS

COLUMN コラム

【BAPクローズアップ案件】キリンHD、カナダのサプリメント大手Jamieson Wellnessを完全子会社化へ

2026.9.17

約2,200億円でカナダ首位ブランドを取得、キリンが北米市場へ踏み出す理由

Blackmores、ファンケル、Jamieson。3件の完全子会社化から読み解くクロスボーダーM&Aのスキーム設計

今回のM&Aサマリ

2026年8月7日(日本時間)、キリンホールディングス(以下、キリンHD)は、カナダのサプリメント大手Jamieson Wellness Inc.(以下、Jamieson)の発行済株式の100%を取得し、完全子会社化するための契約を締結したと発表した。取得価額は1株45.75カナダドル、総額約18億9,800万カナダドル(約2,183億円 / 1カナダドル=115円換算)となっており、2023年の豪Blackmores(約1,692億円)、2024年のファンケルに続く、ヘルスサイエンス領域での大型買収となる。

本件は、カナダ・オンタリオ州会社法上のPlan of Arrangement(POA)という手続により、Jamiesonの全株主が保有する株式を現金で取得するものである。負債を含む企業価値ベースの取引規模は約25億カナダドルにのぼる。成立にはJamiesonの株主総会、裁判所および規制当局の承認等が必要で、株主総会は2026年9月、クロージングは同年10月以降に予定されている。なお、Jamiesonの取締役会は特別委員会からの推奨を受けたうえで、株主に対して本取引への賛成を全会一致で推奨している。

【BAPクローズアップ案件】キリンHD、カナダのサプリメント大手Jamieson Wellnessを完全子会社化へに関するコラムのイメージ画像

なぜJamiesonなのか?北米市場を次の成長領域に選んだ理由

対象会社のJamiesonは、1922年創業、100年以上の歴史を持つカナダのVMS(ビタミン・ミネラル・サプリメント)市場におけるリーディングカンパニーであり、トロント証券取引所に上場している。同国で高いブランド認知度と市場シェア首位の地位を確立しているほか、2022年には米国のNutrawise Health & Beauty Corporationを買収し、「youtheory」ブランドを軸に米国での事業基盤を築いた。業績も堅調で、売上高は2023年12月期の6.76億カナダドルから2025年12月期には8.22億カナダドルへ、営業利益は同0.95億カナダドルから1.18億カナダドルへと増加している。

一方、買い手側であるキリンHDは、2035年ビジョンのもとヘルスサイエンス事業を中長期的な成長を担う重要な事業と位置付け、Blackmoresとファンケルの買収・統合によってアジア・オセアニアにおける事業基盤を構築してきた。2026年には、グループ各社のブランド、販売網、研究開発力、マーケティング力などを一体的に活用するKirin Health Science International(KHSI)を設立している。今回の発表では、アジア・オセアニアで「事業基盤を構築するフェーズ」から、その基盤を活かして「成長領域を拡張するフェーズ」へ移行すると説明しており、世界最大規模のサプリメント市場である北米への事業基盤構築を本件の目的として掲げている。

想定するシナジーとしては、①販売ネットワークの相互活用による事業展開地域・顧客接点の拡大、②高付加価値素材を活用した商品展開、③研究開発・商品開発力の強化、④共同調達による効率向上、⑤事業運営体制の最適化の5点を挙げている。

注目したいのは、Blackmores、ファンケル、Jamiesonの3件がいずれも「上場会社の完全子会社化」でありながら、採用された手続が異なる点である。Blackmores(豪州)ではScheme of Arrangement、ファンケル(日本)では公開買付け(TOB)とその後のスクイーズアウト、そして今回のJamieson(カナダ)ではPlan of Arrangement(POA)が用いられる。以下では、クロスボーダーM&Aにおけるスキームの違いを整理したうえで、買収を重ねるキリンHDの戦略を評価するポイントを見ていく。

Jamieson完全子会社化に使われる「Plan of Arrangement(POA)」とは

日本で上場会社を完全子会社化する場合、TOBで株式を取得し、その後に株式併合などのスクイーズアウト手続によって残存する少数株主から株式を取得する手法が一般的である。TOBの成否は個々の株主が応募するかどうかに左右され、成立後も100%子会社化までには追加の手続が必要となる。キリンHDが2024年に行ったファンケルの完全子会社化もこの方式であり、買付価格を1株2,690円から2,800円へ引き上げ、TOB期間を延長したうえで公開買付けを成立させ、その後の手続を通じて完全子会社化した。

これに対して今回のJamieson買収では、カナダ・オンタリオ州のBusiness Corporations Actに基づくPlan of Arrangementが採用されている。本件では、Jamiesonの株主総会において投票議決権の3分の2以上の承認を得ることに加え、適用がある場合には一定の関係当事者による議決権行使分を除外した過半数の賛成が求められる。そのうえで裁判所や規制当局の承認等の条件を満たせば、反対した株主や決議に参加しなかった株主の保有分も含め、100%の株式を取得できる。

日本のTOB後にスクイーズアウトを行う方式とは異なり、完全子会社化に向けて別途スクイーズアウト手続を行う必要がない点が特徴である。一方、株主総会だけでなく裁判所の承認も必要となり、対象会社の取締役会との合意を前提とするため、同意なき買収にそのまま利用できる仕組みではない。本件では2026年9月に承認を諮る株主総会が開催される予定であり、その後、裁判所や規制当局の承認等を経て、同年10月以降にクロージングを迎える見込みである。

また、2023年のBlackmores買収で使われた豪州のScheme of Arrangementも、株主総会と裁判所の関与を経て、承認後に対象となる株主全体を拘束する点ではPOAと類似しているが、必要となる株主承認の要件や手続の詳細は異なる。

つまりキリンHDは、Blackmoresでは豪州のScheme of Arrangement、ファンケルでは日本のTOBとスクイーズアウト、JamiesonではカナダのPOAと、それぞれの法域の制度に沿った方法で完全子会社化を進めてきたことになる。目的はいずれも上場会社の100%子会社化だが、その実現方法は国・地域の会社法や証券規制によって変わる。クロスボーダーM&Aでは、対象会社の所在国の制度を踏まえて取引スキームを設計することも、案件を成立させるうえで重要な要素となる。

本件の取引条件にもクロスボーダーM&Aの実務が表れている。取得価格の1株45.75カナダドルは、買収に関する一部報道が出る前の最終取引日である2026年6月24日を基準として、直近20日間の出来高加重平均株価(VWAP)に対して27%、直近60日間のVWAPに対して32%のプレミアムに相当する。本件では、報道による株価上昇の影響を受ける前の6月24日を「Unaffected Date」としてプレミアムを算定しており、市場価格に対してどの程度の上乗せがなされたのかを示している。

また、Jamiesonが一定の条件のもとでより有利な第三者からの提案(Superior Proposal)を受け入れる余地を残す一方、キリンHDにはその提案に対するマッチング・ライトが設定されている。Jamiesonが一定の条件で契約を解除する場合には7,000万カナダドル、株式価値の約3.5%に相当する解約金をキリンHDへ支払う設計となっている。買い手に一定の取引保護を与えつつ、対象会社の取締役会がより有利な提案を検討できる余地も残した契約設計といえる。

約2,200億円の買収価格をどう見るか、次に問われるPMI

買収価格の水準はどう評価できるだろうか。前述のとおり報道前20日間のVWAPに対して27%のプレミアムを付している。カナダ市場で首位のブランドと、米国を含む北米での事業基盤を取り込むために、キリンHDが相応の対価を支払う案件と見ることができるか。本件の評価を左右するのは、この投資額に見合う成長とシナジーを今後どこまで実現できるかである。

この点で注目したいのが、キリンHDがJamiesonの買収に先立って、買収後の統合・成長を進めるための組織を設けていたことだ。2026年にKHSIを設立し、Blackmoresやファンケルを含めたグループ各社のブランド、販売網、研究開発力、マーケティング力などを一体的に活用する体制を整えたうえで、Jamiesonをグループに迎え入れる順序となっている。

継続的に企業を買収する「シリアルアクワイアラー」にとっては、個々の案件を成立させるだけでなく、買収を重ねるなかでPMI(買収後統合)の進め方やノウハウを組織内に蓄積できるかが重要になる。Blackmores、ファンケル、Jamiesonと地理的な事業基盤を広げながら、買収対象をヘルスサイエンスという共通領域に置いている点には一貫性がある。個々の企業を独立して保有するのではなく、KHSIを通じて販売網や研究開発、商品、調達などを横断的に結び付けられるかが今後の焦点となるだろう。

一方で、連続買収には相応のリスクも伴う。取引完了後に行われるPPA(取得原価配分)では、Jamiesonが保有するブランドなどの無形資産や、のれんが新たに計上される可能性がある。Blackmores、ファンケルに続く大型買収だけに、今後は取得後の資産評価や減損リスクも確認すべきポイントとなる。さらに、複数のPMIを同時並行で進めることによる組織負荷や、カナダドル建ての資産・収益を抱えることで受ける為替変動の影響も考慮する必要がある。

買収の発表はゴールではない。約2,200億円という投資が適切だったかどうかは、北米での売上拡大やグループ間シナジーが今後どれだけ実際の利益として表れるかによって評価されることになる。

まとめ

本件は、ヘルスサイエンスを中長期的な成長を担う重要な事業と位置付けるキリンHDが、Blackmores、ファンケルに続いて事業基盤を北米へ拡張する大型投資である。同時に、Blackmoresでは豪州のScheme of Arrangement、ファンケルでは日本のTOBとスクイーズアウト、JamiesonではカナダのPOAと、異なる法域で上場会社を完全子会社化してきた過程は、クロスボーダーM&Aにおける取引スキームの違いを比較するうえでも興味深い事例となっている。今後は、Jamiesonの株主総会と裁判所・規制当局の承認等を経て、2026年10月以降に取引が完了する見通しである。

クロージング後の焦点は、KHSIを軸とした統合の実行に移る。販売網の相互活用や商品開発、研究開発、共同調達など、キリンHDが掲げるシナジーをどこまで実際の売上・利益として実現できるかが問われる。

M&Aの評価は、買収発表時の価格やスキームだけで決まるものではない。何を、どの地域で、どの手法を用いて取得し、その後どのように既存事業と組み合わせるかまで含めて初めて結果が見えてくる。

Blackmores、ファンケル、Jamiesonと大型買収を重ねてきたキリンHDにとって、本件は北米進出の成否だけでなく、連続買収によって形成してきたヘルスサイエンス事業を一つのグループとして機能させられるかを測る案件となるだろう。

出典・参考資料

本記事は公開情報に基づく一般的な情報提供を目的としたものであり、当社が内容の正確性・網羅性・最新性を保証するものではありません。また、特定の投資判断や法律・会計・税務に関する助言を行うものではありません。これらの事項については、必ず弁護士、公認会計士、税理士などの専門家にご確認ください。本記事の利用により生じたいかなる損害についても、当社は一切の責任を負いかねます。

公式LinkedInのご案内

公式LinkedInアカウントでは、本記事のようなクローズアップ案件をはじめ、各種インサイトの更新やセミナー・イベントのご案内など、皆さまのビジネスに役立つ情報をいち早くお届けしています。
ぜひフォローいただき、最新の情報をご覧ください。

LinkedIn LinkedInアカウントはこちら

関連リンク

ホームへ戻る