COLUMN コラム
【BAPディールインサイト】2026年の公開買付制度改正でTOBはどう変わるのか
2026.8.21
「3分の1」から「30%」へ。市場内買付けも対象となる公開買付規制
約20年ぶりの大改正が買収戦略と資本政策に与える影響を読み解く
約20年ぶりの抜本改正が施行
2026年5月1日、2024年5月15日に成立した改正金融商品取引法のうち、公開買付制度に関する改正が施行された。同制度の大きな見直しは、2005年の当時の証券取引法(現 金融商品取引法)改正以来、約20年ぶりとなる。
改正の柱は二つある。第一に、公開買付け(TOB)が義務付けられる基準が「3分の1超」から「30%超」へ引き下げられたこと。第二に、これまで原則として規制対象外だった市場内取引(立会内取引)でも、買付け後の株券等所有割合が30%を超える場合にはTOBが必要となったことである。
本改正は、30%前後の持分を持つ資本提携先だけの問題ではない。上場子会社を持つ親会社、段階取得を検討する買い手、株主構成の変化に備える上場会社にも影響する。本稿では、主な改正内容と実務上の対応を整理する。
これまでの公開買付規制
従来の制度では、市場外で多数の者から株式を買い付け、買付け後の株券等所有割合が5%を超える場合には、原則としてTOBが必要とされた。さらに、市場外での買付けにより3分の1を超える場合には、相手方が少数でもTOBが必要だった。
一方、市場内買付けは原則として規制対象外だった。しかし、東京機械製作所の事例のように、市場内取引を通じて短期間に3分の1超を取得するケースでは、一般株主に十分な情報や検討時間が与えられず、「早く売らなければ取り残されるのではないか」という売却への圧力が生じ得る。今回の改正は、こうした問題への対応でもある。
ポイント① 基準は「30%超」へ
改正後は、買付け後の株券等所有割合が30%を超える場合に、原則としてTOBが必要となる。この割合は、おおむね議決権を基礎としつつ、買付者の特別関係者や潜在株式も考慮して算定されるため、表面的な持株比率だけでは判断できない。
30%という基準は諸外国でも採用例が多い。日本の上場会社における議決権行使割合を踏まえると、30%を保有すれば、多くの会社で株主総会の特別決議を阻止し、普通決議にも重大な影響を及ぼし得ると考えられている。引下げ幅は3.3%だが、「3分の1未満ならTOBは不要」という従来の公開買付規制を前提に設計された資本提携や持分投資にとって、その影響は小さくない。
ポイント② 30%超となる市場内買付けも規制対象に
改正後は、市場内取引であっても、買付け後の株券等所有割合が30%を超える場合には、原則としてTOBによることが求められる。30%を超える取得について、必要な情報開示と株主の公平な売却機会を確保する考え方が明確になった。
「僅少な買付け等」の例外の適用は、買付け前からすでに株券等所有割合が30%を超えている者による追加取得に限られ、増加幅が0.5%未満であること、直前6か月間にTOBや適用除外買付け等以外の買付けを行っていないこと、買付け後の所有割合が3分の2未満であることなど、所定の要件をすべて満たす場合に限りTOBが不要となるもので、30%以下から30%超へ基準をまたぐ買付けには、この例外は適用されない。
また、従来の「急速な買付け等」の規制は廃止された一方、買付け時点で発行会社との間に新規発行株式の取得に関する合意がある場合には、その株式も含めて所有割合が計算されることになった。
30%を超える取得では、TOBを前提とした早期準備が必要に
本改正の実務上の本質は、TOBの実施場面が増えることだけではない。30%を超える可能性がある段階から、TOB実施を前提とした取得価格、資金調達、買付け後の経営方針、対象会社との対話、開示内容を一体で設計する必要が生じた点にある。従来、資本提携契約の付随条項として扱われがちだった買増し余地は、今後、経営戦略とディール実行計画の中核となる。また、30%前後の持分を保有する株主が存在する上場会社においては、その株主との間で買増条項、スタンドスティル条項、希薄化防止条項、追加取得のオプションなどについて合意している場合、改正後の公開買付規制と整合しているかを確認する必要がある。
なお、すでに議決権の50%超を保有する上場子会社の株式を追加取得する場合の従来の適用除外も削除された。親会社もTOBの要否を改めて確認する必要がある。自己株式の取得や消却による比率上昇でTOB義務が生じるものではないが、その後の買付余地は変わるため、大株主との提携契約と将来の資本政策を合わせて検討すべきである。
買い手と対象となる上場会社の双方に求められる対応
買い手側では、30%を超えない範囲で市場内取得を進めてからTOBへ移行する手法は引き続き可能である。ただし、公開買付規制と合わせて実施された大量保有報告制度(5%ルール)の開示ルール見直しにより、大量保有報告書の提出日から3ヶ月以内に5%を超える買い増しを行う予定がある場合は詳細な開示が求められることになった。30%超を見据え、価格、資金調達、スケジュール、買付け後の経営方針を早期に具体化しなければならない。「なぜこの価格・時点で支配権を取得し、どのような価値を生み出すのか」を説明できることが、案件の成否を左右する。
対象となる上場会社側でも、30%までの市場内買付けがなされる可能性があることから、株主構成や大量保有報告を平時からモニタリングすることに加え、保有割合の増加ペースなどに応じて社内外の対応チームを立ち上げる基準を定め、TOBの予告・開始後の対応までを連続したプロセスとして整備する必要がある。
開示ガイドラインが示す実務の方向性
金融庁は、2026年5月1日から改正後の公開買付開示ガイドラインを適用している。同ガイドラインは、関東財務局による開示書類の審査上の留意事項を示すもので、プレミアム・ディスカウント率、最近の取引価格との差額、1株当たり純資産額を下回る場合の判断根拠、過去の同種案件との比較など、公開買付価格の「なぜ」を具体的に説明する方向性を示している。これは、PBR1倍や一定のプレミアム率を価格の下限とするものではない。重要なのは、比較対象の選び方を含む価格算定、当事者間の交渉、特別委員会・取締役会の判断、最終的な開示のロジックを一貫させることである。公開買付届出書や予告公表文については関東財務局への事前相談も想定されており、法務、財務、事業、コミュニケーションを横断した早期準備が必要となる。
まとめ
今回の改正は、単なる閾値の変更ではない。上場会社の支配権を、誰が、どのような手続で取得するのかを改めて設計するものである。30%は、TOBの要否を判断する法務上の基準であると同時に、取得価格、資金調達、経営方針、株主への説明を具体化する経営上の節目となる。30%近辺の株主がいる上場会社は既存契約と資本政策を再確認し、買収や資本提携を検討する企業は、ディール後まで見据えて取得ロードマップを引き直す必要がある。
出典・参考資料
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